アートリップが日本経済新聞の社会的処方の特集記事に掲載されました。
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認知症・うつ・孤立にアートを 広がる「社会的処方」 アートとケア(上)
2024/4/4 2:00日本経済新聞 電子版
アーツアライブ(東京・豊島)は3月上旬、佐倉市立美術館で認知症患者向けの対話型美術鑑賞会を開いた
アーツアライブ(東京・豊島)は3月上旬、佐倉市立美術館で認知症患者向けの対話型美術鑑賞会を開いた
認知症やうつの患者に、医師らが薬と同様にアート体験を「処方」する――。「社会的処方」と呼ばれる取り組みの一つだ。今、国内外で注目を集めている。
【「アートとケア」連載記事】
(下)アートの治療の効果はどれだけ? 求められる科学的根拠
「絵の中にカエルがいる!」「そういえば子供の時、よくカエルでザリガニ釣ったなあ」。3月上旬の佐倉市立美術館(千葉県)、認知症の自覚症状がある高齢者など十数人が絵画を前に感想を語り合った。
最初は口数が少なかったが、次第に感想があふれてくる。1時間余りの鑑賞会の後半にはみな笑顔で、昔の記憶がよみがえってくる人も。様子を見守っていた家族は「普段はこんなに話さないのに」と驚き、喜んだ。
一般社団法人アーツアライブ(東京・豊島)が全国の美術館などで開く「アートリップ」だ。林容子代表理事は「参加者の大半が驚くほど昔のことを思い出す。食欲がわいたり、何を見たかは忘れても楽しかった記憶は翌日以降も残っていたりする人が多い」と話す。
林氏は2011年、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)の認知症患者と家族向け対話型美術鑑賞プログラム「Meet Me at MoMA」を視察して感銘を受けた。MoMAの監修の下、マニュアルを翻訳。日本向けに改良も加えて国内の美術館や病院などで提供する。対話を導く「アートコンダクター」の育成にも力を注ぐ。
認知症やうつ、薬物・アルコール中毒、貧困、引きこもり。様々な問題に苦しむ人々を手術や薬などの医療だけではなく、社会のネットワークで支えようというのが「社会的処方(Social prescribing)」だ。ウェルビーイングにつながるとして注目を集めている。実践の場として美術館や博物館への期待は高い。
海外では医師が患者に美術館や博物館訪問を「処方」する例も出始めた。カナダではモントリオール美術館が18年、ロイヤルオンタリオ博物館が19年にそれぞれ医師会などと提携して医師が患者に鑑賞体験を処方できるようにした。同様の動きは19年に台湾、21年にベルギーと相次ぐ(ベルギーは3カ月間の試験実施)。
モントリオール美術館の場合、最大で年50枚の処方箋を出すことができる。認知症や糖尿病など対象は広く、患者は家族や介護士らと一緒に無料で展示を楽しめる。コロナ禍で中断したが22〜23年に復活。現在は参加者の健康に与えた効果を検証中だ。
「芸術は身体的・精神的健康にプラスの影響を与えるというのが私たちの信念だ」と同館。16年に芸術療法の専用施設を開き、現在は「アートセラピスト」1人が常駐する。大学や医療機関と提携して進める調査・研究は数十件。言語障害や摂食障害、移民など様々な人々に向けた専用プログラムも用意する。
社会的処方の先進国といえるのが英国だ。かかりつけ医が患者を必要に応じて「リンクワーカー」と呼ばれる専門員に紹介。リンクワーカーがボランティア団体や博物館、美術館などでの活動に参加を促す。公的医療制度に組み込まれ、医療費抑制につなげている。
国立アートリサーチセンター(東京・千代田)が23年10月、都内で開いたシンポジウムでは、マンチェスター市立美術館が移民の多い貧困地区で実施した収蔵品をきっかけに会話を広げるプログラムや、リバプール国立博物館が開発した認知症啓発プログラム「ハウス・オブ・メモリーズ」などを紹介。シンポジウムの動画や事例集をホームページで公開している。
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